「きらきらと溜息のふきだし」2012年

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懐かしい名前に導かれ雨の中、展覧会に出かけた。利発でガッツがあり可愛い、粒ぞろいな学年で、4年担当教員の私には思い入れがあった。そんな彼女たちが社会に出て今、どんな作品を見せるのか。布や糸を用いた作品が中心で、版画や絵画などのメディアも混在する。いずれも色彩を駆使したカラリストである。でも、会場に足を踏み入れた瞬間、少々落胆。「やはり卒業制作がピークだったなあ」という印象。仕事を続けながらの制作は、その質を維持することはたやすくない。しかし40分後、会場を出る時は「こんな制作もあっていいなあ」と肯定に転じた。変化したのは私である。「こんな」とははたして何か。確かに卒業制作の質は高かった。社会の動向を意識し、コンセプトを練りあげた成果である。しかし今回は、自分の中を覗き込み、仲間との言葉のやり取りの中でみえてきた関係を形にしている。どこまでも自分に忠実、日常に対峙し素直である。社会が・・私が・・と主張する強い表現ではない。それは、インスタレーションの言葉にも現れていた。「夢の中に帰らせていただきます」「ひみつのみつ」「ないしょの話のつづき」「きらきらと」「溜息のふきだし」「密やかな鼓動」「逃避行の服」「嘘のなつやすみ」など、自分自身の原点をあぶりだしたかのような言葉が並んでいる。遠くを見るのではなく足元を見る。手堅い。社会などという抽象的な言葉を手がかりにせず、家族を、恋人を、仲間を大事にする感覚。人としての優しい気持ち、素直な感情を上手に育んでいくことこそ大事なのだ。卒業3年を経た彼女たちが、日常から発信する表現を手放さないことが嬉しい。そしてこの根強い優しさは、これからの日本にとって必要なものであろう。大義や理念は不要。「やっぱり戦争、ヤだもんね」というかつての名コピーライトのように、「やっぱり私は・・ね」と素直に考え発言できる彼女たちは強い。社会の方向はドメスティックな発言から生まれる。芸術大学で学んだ者としてのミッションを充分に果たしていると思いつつ会場を後にした。

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ARTZONE2011年度企画公募第5弾

月報紙CAGE『不思議カラフル連想ゲーム』展レビュー

朝日奈保子、上野彰子、岡田夏苗、北村彩、科野和子、高橋春早、田中秋沙、田中結香、西村かおり、藤井まりこ、三宅良佳

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